そゞろごと

noli me legere

岩波文庫の大手拓次詩集

昼休みに会社の近くの古本屋へ行ったら岩波文庫大手拓次詩集があった。大手拓次、そういえばこの前日記で言及したな、と思いながらその本を手にとってぱらぱらと読んでみて驚いた。これは……

私はこれまで思潮社の現代詩文庫で拓次の詩に親しんできたのだが、それに洩れたあまりにもみずみずしい詩篇の数々がここにはある。すぐれた詩人であることは思潮社の本でもはっきり分ったが、しかしこれほどまでにすぐれた詩人だったとは今の今まで知らなかった。

この人の感覚は明らかに常人とは違う。一種の狂人といってもいい。そしてその狂人の見た、感覚した世界はどこまでも明るく、しかもその明るさの中心には沼のような底知れぬ神秘がある。神秘は幽玄なもののうちにのみあるのではない、澄明なもののうちにも宿るのである。……

さらに巻末の解説がまたすばらしい。書いているのは原子朗という人で、一読してこの人のファンになった。それに比べて思潮社の本の解説を書いている窪田般弥のなんとつまらんことよ。この窪田という人は私の中でジャズ評論家の岩浪洋三と等しい位相にある。

原氏は独力で拓次の新全集を編纂しているらしいが、この本が出てからすでに二十年になろうとしている現在、まだご存命でいらっしゃるのだろうか。全集が出たらどんなに高価でも買いたい、いや買わせていただきます。

というわけで不意打ちにひとしい衝撃を受けた昼休みであった。