そゞろごと

noli me legere

「文芸ガーリッシュ」本朝篇

最近どうもガーリッシュ成分が足らないんじゃないか、と思って手に取った千野帽子氏の「文芸ガーリッシュ」。これの舶来篇はだいぶ前に読んだ。で、今回はそれの日本篇であるが、まず目次をみて驚く。ほとんどが知らない作家の知らない作品ばかりだ。知っている作品ばかり紹介されたのでは意味がないが、しかしこれはちょっと間口を広げすぎなんじゃないか?

とはいうものの、著者はガーリッシュに文芸という限定を加えることで、広大なサブカルチャーの領域の一歩手前に踏みとどまっている。この一線を守ったのは著者のインテリとしての見識だろう。この一線を超えてしまったばかりに自滅していく評論家のいかに多いことか。

「ガーリッシュなるもの」にも流行の相と不易の相とがある。そして両者は別々に存在するものではなく、互いに絡まりあってひとつの統一体をかたちづくっている。本書はその結晶のような統一体の或る美しい断面のようなもの。この切り口と切り方とに著者の閲歴が透けてみえる。変な言い方だが、この本はたしかにたんなる案内書ではなく、著者の生活と意見とを反映したものなのである。

われわれが見ることのできるのは、つねにこの統一体の一断面にすぎない。そしてそこには当人の閲歴と、客観的な歴史と、時代のフォークロアとが微妙にないまぜになっている。……

というような、とかく観念的になりがちな男の見方とは別に、女性ならではの見方というものも存在する。こっちのほうは私にはすっぽりと欠如していて、女が女を、あるいは自己をどう見るか、というのはこれまでほとんど視野に入っていなかった。本書にはそんな私の偏見を正してくれそうな作品が数多く紹介されている。

というわけで、本書に選ばれた作者と作品の一覧を下にあげておこう。男性作家の作品には☆をつけておいた。


1.文学少女の毒と蜜

尾崎翠第七官界彷徨
野溝七生子「山梔」
森田たま「石狩少女(をとめ)」
城夏子「小説家と少女との挿話」
倉橋由美子「暗い旅」
須賀敦子「遠い朝の本たち」
小川洋子「ミーナの行進」

2.だれもあの子を止められない

森茉莉「甘い蜜の部屋」
岡本かの子「女体開顕」
水村節子「高台にある家」
高橋たか子「誘惑者」
山尾悠子「月蝕」
夢野久作「少女地獄」☆
室生犀星「蜜のあはれ」☆
佐々木丸美「雪の断章」
綾辻行人「緋色の囁き」☆

3.女子のライフスタイル

武田百合子富士日記──不二小大居百花庵日記」
大迫倫子「娘時代」
白洲正子「きもの美──選ぶ眼・着る心」
鴨居羊子「のら猫トラトラ」

4.夢見る乙女なんてどこにもいない

高群逸枝「娘巡礼記
太宰治「女生徒」☆
久世光彦「謎の母」☆
丸岡明「霧」☆
原田康子「サビタの記憶」
野上弥生子「森」

5.戦場の小娘(フィエット)たち

清水博子「ぐずべり」
多和田葉子「聖女伝説」
角田光代「学校の青空」
赤坂真理「ミューズ」
津島佑子「燃える風」
栗田有起「豆姉妹」
舞城王太郎阿修羅ガール」☆
若合春侑「無花果日記」

6.お嬢さん大活躍

獅子文六「七時間半」☆
小沼丹「風光る丘」☆
久生十蘭「キャラコさん」☆
三島由紀夫「夏子の冒険」☆
犬養道子「花々と星々と」
武田泰淳「貴族の階段」☆
小泉喜美子「ダイナマイト円舞曲(ワルツ)」

7.文芸ライオットガールズ

竜肝寺雄「燃えない蝋燭」☆
片山広子「魔女の林檎」
佐多稲子「素足の娘」
福永武彦「鏡の中の少女」☆
鈴木いづみ「女と女の世の中」
福島メグミコ「少女レツナ──検閲済 小児向特別版」

8.男子という隣人、少年という幻想

藤野千夜「少年と少女のポルカ」☆
岳本野ばら「エミリー」☆
松浦理英子「セバスチャン」
長野まゆみ「雨更紗」

笙野頼子「硝子生命論」
新井千裕「忘れ蝶のメモリー」☆

9.「トモダチ以上」な彼女とわたし

川端康成「乙女の港」☆
吉屋信子「屋根裏の二処女」
幸田文「草の花」
津村節子「茜色の戦記」
岩井志麻子「女学校」
佐々木邦「少女百面相」☆
高樹のぶ子光抱く友よ
木々高太郎「わが女学生時代の扉」☆
田村俊子「悪寒」

10.Girlish days in your life

金井美恵子「噂の娘」
村田喜代子「鍋の中」
矢川澄子「失われた庭」
水村美苗「本格小説」
井亀あおい 無題
久坂葉子「灰色の記憶」
滝沢美恵子「ネコババのいる町で」