そゞろごと

noli me legere

ルイス・ブニュエル「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」

アマゾンからのおすすめでなんとなく購入。期待することもなく見たが、そんな生ぬるい鑑賞態度にふさわしい脱力した映画であった。

入れ子になった悪夢の同時遍在、しかもそれをコメディのタッチで描き出すことで、ブルジョワジーの、というより暇をもてあました大方の現代人の日常を皮肉な目で眺めている。人生なんてしょせんはそんなものじゃないか、という作者の声がきこえてくるようだ。

このさめきった視線はカフカに通じるものがある。カフカにしろブニュエルにしろ、悪夢を愉しんでいるとしか思えない。彼らは不条理の底を割ってみせ、そこには虚無しかないことを示す。

臨終の男の懺悔を聴いたあとで彼を銃殺する神父。このエピソードだけが妙に心にひっかかる。それはおそらくこの悪夢が未解決の状態で放り出されているからだ。覚めない悪夢をも愉しむことができるかどうか、そこに夢のパラドックスがある。いつまでも覚めない夢は現実と区別できないのだから。

しかしこの映画、もし監督がブニュエルでなければたいして高い評価を得ることはなかっただろう。星をつけるなら三つくらいか。