大手拓次文庫のフランス語図書
原子朗氏の本に拓次の所蔵していたフランス図書の目録があって、これを見ていると彼の嗜好がなんとなくうかがえる。版元は圧倒的にメルキュール書店のものが多くて、これは拓次にかぎらず、当時フランス文学に関心をもっていた人々はほとんどこの本屋のお世話になっている。なかにはメルキュール書店のものを雑誌もふくめて一括で購入した人もいるらしい。この本屋の日本版が長谷川巳之吉の第一書房であろう。
さて拓次の蔵書だが、数はそんなに多くない。散逸してしまったものも少なくないと思われる。そんななかでまず目をひくのは、各種のアンソロジー(詩華集)が揃っていること。
・ガルニエ古典叢書の五巻からなる古典詩のアンソロジー(十六世紀から十八世紀まで)
・クレ書店の「二十世紀アンソロジー」
・メルキュール書店のバラッドのアンソロジー
・ベヴェール&レオトー共編の「今日の詩人たち」
・アンリ・クルール編「現代フランス詩」
・フィウミ&アンヌーズ編の「現代イタリア詩選集」
・レ・マルジュの「今日の詩」
・ヴェシエール編「二十世紀詩華集」
・エドモン・フレッグ「ユダヤ詩選集」
・「フェリブリージュ・プロヴァンサル詩華集」(南仏詩人のアンソロジー)
・ガブリエル・スラージュ「ギリシャ詩華集最美の薔薇」
次に個別の詩人の詩集(もしくは詩抄)がある。ざっと並べてみると、
・テオドール・ド・バンヴィル「詩抄」
・ボードレール「悪の華」(三種類)
・ルイ・ベルトラン「夜のガスパール」
・トリスタン・コルビエール「黄色の恋」
・ジョルジュ・デュアメル「哀歌」
・ポール・エリュアール「愛、詩篇」
・ポール・フォール「百合の花」
・シャルル・ゲラン「孤独な心」
・ハインリヒ・ハイネ「歌の本」
・ギュスターヴ・カーン「初期詩篇」
・アルベール・サマン「イスパニア王女の庭園」
・エミール・ヴェラーレン「詩選集」
・ジャン・コクトー「オペラ」「ル・ポトマック」
・ガブリエレ・ダヌンツィオ「リゾッテオ──ラ・キメラ」(伊語)「詩集」(仏訳)
・レミ・ド・グールモン「仮面の書」「第二・仮面の書」「カルミナ・サクラ」「フランス語の美学」「魔法物語」
・フランシス・ジャム「わが詩的フランス」「ジャム作品集」
・ピエール・ルイス「ビリチスの歌」「詩集」
・モーリス・メーテルリンク「二重の庭園」「貧者の宝」「未知の客」
・ジャン・モレアス「スタンザ集」「初期詩篇」「詩選集」
・ノアイユ夫人「日々の影」「数えきれぬ心」
・アンリ・ド・レニエ「初期詩篇」「水の都」
・タゴール「抒情の花束」「ラーマーヤナ」「ベンガルの伝説マンゴーの木の下で」
・ヴェルレーヌ「全集」「呪われた詩人たち」「詩選集」
以上、必ずしも詩集ばかりではないが、詩の周囲に位置すべきものをあげてみた。
次は小説。
・ヴィリエ・ド・リイルアダン「残酷物語」
・エドガー・ポー「新・異常な物語」(ボードレール訳)
・フランシス・カルコ「フランソワ・ヴィヨン物語」
・フランソワ・コペー「物語と哀歌」
・ドストエフスキー「白痴」
・アンドレ・ファージュ編「現代短篇小説集」
・ラフカディオ・ヘルン「こころ」「怪談」「骨董」
・ブルワー・リットン「ポンペイ最後の日々」
・ピエール・ロチ「秋の日本」「イェルサレム」「アフリカ騎兵」「お菊さん」「ラムンチョ」
・ミシェル・レヴォン「日本文学アンソロジー」
・モーパッサン「美貌の友」「女の一生」「イヴェット」
・ロマン・ロラン「ミケランジェロの生涯」「ベートーヴェンの生涯」「トルストイの生涯」
・アントン・チェホフ「わが妻」
・オスカー・ワイルド「ドリアン・グレイの肖像」
また古典的なものとして下記のようなのがある。
・セルバンテス「ドン・キホーテ」
・ピエール・コルネイユ「ル・シッド」「オラース」
・ガラン「子供のための千一夜物語」「千一夜物語(二巻本)」
・グリム兄弟「童話集」
・オマル・カイヤム「ルバイヤート」
・ベルナルダン・ド・サン=ピエール「ポールとヴィルジニー」
思想書に分類されるものとして、
・「聖書」(仏訳)
・「コーラン」(仏訳)
・パスカル「パンセ」
・スピノザ「エチカ」
・ボードノン「告白と方向について」
・ボシュエ「あらゆる神秘を超えて神の高みへ」「神の認識と自己認識と」
・ル・シャノワール「福音書の瞑想」
・A.ダストル「生と死と」
・マリー=テレーズ・シーグマン「愛と真実」
また一般的な文学書のたぐいは、
・レオン・ボケ「アルベール・サマン、生涯と作品」
・アンドレ・ブルトン「シュルレアリスム宣言」
・フェルディナン・ブリュンチエール「二十世紀におけるフランス抒情詩の展開」
・マルセル・プルースト「手帖」
・ポール・クローデル「詩人たちのアルバム」
・コムラン「新しい神話学」「イソップ物語」
・エルネスト・ドラエー「ランボー」「ヴェルレーヌ」
・ファーブル「昆虫記」三巻
・エミール・ファゲ「フランス詩史」第二巻
・アンドレ・ジェルマン「プルーストからダダへ」
・ラルース、ボワイエ「詩の宝庫」
・ピエール・ラセール「フランス・ロマン主義」
・シャルル・ルルー「毒薬史考」
・ジーナ・ロンブローゾ「女性の魂」
・アルベール・チボーデ「ステファン・マラルメの詩」
・フランソワ・ポルシュ「ボードレールの苦難の生涯」
・L.ピエール・カン「マルセル・プルースト」
・エルネスト・レイノー「象徴派論争(三巻)」
・ジャン・ロワイエール「詩の光明」
・アンドレ・サルモン「舗道 1918 - 1921」
・ポール・ヴァレリー「文学」
あと分類不可のもの
・「支那の寓話」(ボッサール書店)
・「アラビア物語」(キニョン書店)
・「女神の讃歌」(サンスクリット詩のアンソロジー? ボッサール書店)
・「カザノヴァ最美の愛の夜」(キニョン書店)
美術書に属するものとして
・アバニンドラナート・タゴール「ヒンズー絵画の六つのカノン」
・マルク・シャガール
・アリスチッド・マイヨール
・オディロン・ルドン
・シュザンヌ・ヴァラドン
がある。下の四冊は画集のようだ。
最後にフランス語の文典そのほか。
・オージェの仏語文典
・クレダの仏語文典
・ヴァン・デール「仏語発音法」
・アルベール・ドーザ「人名辞典」「地名辞典」
・モーリス・グラモン「フランス語の発音」
・「フランス語の発音ならびに史的形態論」
・マルチノン「フランス語発音法」
・マルテル編「ふらんすことわざ辞典」