そゞろごと

noli me legere

シュトルム詩集

いままで読む気にもならなかったシュトルム。この前さる方の導きで一括購入した角川の「世界の詩集」に入っているので読んでみたが、思いのほかいい詩を書いているのに驚いた。泉のごとく湧き出てくる詩情がいっぱいに溢れてついこぼれ落ちた、というような、実感に即した詩の数々。いままでこういうものに親しんでこなかった私には非常に新鮮だ。

しかしそれにもまして私を驚かしたのは、この詩人が十九歳のときに十歳の少女に熱烈な恋をしていることだ。ドイツ人にはときどきいますよね、この手の変態さんが。いや、人のことはいえない、私のなかにもこの手の変態さんはいる。

そんなわけで、同病相憐れむというか、彼の心事がよく分る私には、この純情(とあえていう)のほとばしりが一抹の苦味をともなって感じられる。そしてこのビタースイートの味わいは、やがて圧倒的な悲哀感となって私を包み込む。なにしろこれらの詩篇を読んでいると、もう二度と戻ってこない青春の日々が痛切な甘美さで思い出されるのだからたまらない。これは人生の盛りをすぎてしまった人間には毒だ。


たのしい祭の夏の なんと早くすぎさったことか?
わびしげに秋風が吹き、それでもまだ春がくるというのだろうか?

あそこに よわい陽のひかりがさしている──
おいで、いっしょにあそぼう 白い蝶よ!

もうナデシコも バラの花もない
空にはさむざむとした雲がよせてくる!

ああ なんと早く 夏のよろこびのすぎ去ることか──
さあ おいで! 白い蝶よ、おまえはどこにいる?


藤原定の訳はすばらしくて、原文を覗いてみようという気にもならないほどだ。