そゞろごと

noli me legere

ジョディ・フォスター対アナ・トレント

──理想のロリータ女優はだれですか?
──「ミツバチのささやき」のアナ・トレントです。異論は認めません。
──僕は「タクシードライバー」のジョディ・フォスターが一番だと思いますね。
──えええ!? あんなの思いきりやらせじゃないですか。
──そうかもしれないけど、アナの無垢さはちょっとロリータというには遠いですね。
──どのみちアナを越える少女子役はいません。あの瞳には心底参りました。
──まあ、子役としてアナが優れているのは僕も認めますよ。でも、ロリータかといえば、違うといわざるをえませんね。

そんな会話をかわしたのは二十年ほども前のことだ。その話がどんな結論に落ち着いたか、それはもう忘れてしまった。いずれにしても、それ以来、「ミツバチのささやき」のアナを絶賛する人には何人もお目にかかったが、「タクシードライバー」のジョディを褒める人はまずいなかった。しかし、じっさいのところどうなんだろう、それぞれに魅力はあるだろうけど、ロリータ女優という見地でどっちが上か、もう一度映画を見直して検討してみてもいいと思っている。

まあそれはそれとして、きょう道で信号待ちをしていたら、横手から乳母車(ベビーカーというのか)を押してくる若い男がいる。ふと中を覗いてみると、寝ていた幼女がぱちりと目をさました。その目! 私はたちまちアナの目を思い出した。濡れたような、大きな黒目がちの目で、あんなに無垢で、無邪気で、しかも威厳のある目をした子が日本にもいるのかと思うとちょっと嬉しくなった。

しかし今その子の顔を思い出そうとしても、目に浮んでくるのは林檎を差し出すアナの顔ばかりなのはどうしたことだろう?