そゞろごと

noli me legere

大倉桃郎「琵琶歌」

「明治家庭小説集」の四つめにして最後のものだが、どうも感想を書きにくい。これは出来損なった社会小説ともいうべきもので、家庭小説という枠に収まりきるものではない。一種のアウトサイダー小説、匪賊小説としても読めるだろう。

巻末の解説に「島崎藤村の「破戒」以前に現れた部落問題に取材した少数の作品の一つ」とあるけれども、これは穢多の兄妹を主人公にしているからそう見えるだけで、ここには部落問題への社会的関心や踏み込みなどはまったく見られない。穢多という字はたんにアウトサイダーとしての「個」を鮮明ならしめる表徴として使われているにすぎない。

けっしてつまらないわけではないが、あれもこれもと詰め込みすぎの小説ではある。感想が書きにくい所以だ。