そゞろごと

noli me legere

尼さんの罰当りな言葉の正体

スターンの「トリストラム・シャンディ」第七巻第二十五章に、動かなくなった驢馬をけしかけるため、アンドゥイエの尼さん二人が「罪深い」言葉を 交 互 に 発する場面がある。罪深い言葉でも、半分だけなら言っても罪にはなるまい、というわけで、一人が「やっ」と言ったらもう一人が「ちゃえ」と言い、「つっ」と言ったらすかさず「こめ」と唱えることにした。

尼院長   \ やっ------やっ------やっ-----
マルガリータ/ ----ちゃえ----ちゃえ----ちゃえ

尼院長   \ つっ----つっ----つっ
マルガリータ/ ----こめ----こめ----こめ

しかしそんな二人の努力にもかかわらず、驢馬はいっこうに動こうとしない……

これを読んだときは思わず吹き出してしまったが、そのときは原文ではどうなっているのか考えもしなかった。ところがどういう風の吹き回しかいまごろになってそれが気になってきたので、ネットで調べてみると、問題の「罪深い」言葉というのは、bouger と fouter らしいのである。

そんな英語はあったかなあ、としばし考え込んでしまったが、よく考えてみればアンドゥイエの尼さんはフランス人なので、じっさいの会話はフランス語でやっているわけだ。フランス語ならばたしかに似たような言葉はある。bougre と foutre がそれだ。この二つは19世紀までは一般に b...とか f...とか伏字にされていたほど罰当りな言葉なのである。

foutre の原義は英語の fuck だから分りやすい。だから foutre が「つっこめ」はいいとして、bougre に「やっちゃえ」という意味があるのかどうか(しいていえば非道行犯か)。