菊池幽芳「乳姉妹」
「家庭小説集」所収四篇のうちの二つめ。これはすばらしい小説。先が読めそうでなかなか読めず、しかも終ってみればすべてはその落ち着くべきところに落ち着いて、読み手は涙とともに快いカタルシスを得る。娯楽読物としては第一級のものだと思った。
こういうものなら何冊でも読めるね、いつまでも生きていられればの話だけどね。
ところで、「粋判官」日夏黄眠は幽芳をどう見ているかとえいば、意外にもその評価はけっこう高い。といっても彼の家庭小説を買っているわけではなくて、海外文学に精通し、翻訳も巧みであり、留学経験もある幽芳ほどの人物がどうして家庭小説にばかり終始して、もっと価値のあるものを書かなかったのかを惜しんでいるのである。
幽芳の家庭小説にはもうひとつ代表的なのがある。これもそのうち読んでみたい。