そゞろごと

noli me legere

魚はさかなにあらず

小学生のころ使っていた国語の副読本に、「魚は「さかな」と読んではいけない、「うお」と読みなさい」と書いてあるのを見てふしぎに思った。それじゃあ「さかな」は漢字でどう書くのだろうか?

──漢字でどう書くかって? 肴と書くんだよ。

なんて答えてくれる機智にとんだ先生もいなかった。

しかし、さかなというのが酒のさかな、つまり酒菜(さかな)であるという語源説は正しいように思う。つまりこれは食物として見られた魚なのである。それに対して「うお」の語源はまだ調べてみないけれども、こっちは食物というより、生きとし生けるもののひとつとしての魚をさしているのではないだろうか。極端なことをいえば、さばかれて魚屋の店先に並んでいるのが「さかな」で、水族館などで泳いでいるのが「うお」なのである。海や川にいる魚は「さかな」でもあり「うお」でもあるだろう。

岩波文庫大手拓次詩集では魚という字にすべて「うを」とルビがふってある。その根拠を私は上のような解釈に求めたい。「白魚のような手」を「しろざかなのような手」と読むことの無理を思えば、この私の推測もあながち的外れではあるまい。

そうはいっても、やはり「魚をさかなと読んではいけません」という意見には与しがたいものを感じるが。