そゞろごと

noli me legere

2012-01-01から1年間の記事一覧

神託としての詩

最近知った詩人でこれは、と思ったのがシルヴィア・プラス。およそ私が女性に期待するものといえば、丸くて白くて柔らかいなにものかなんだが、シルヴィア・プラスはそのいずれにも当てはまらない。にもかかわらずこの魅力。うーむ、困った困った。金関寿夫…

巨星墜つとも

フィッシャー=ディースカウ死す。といっても、まったくなんの感慨もわいてこない。ふーん、死んだか、くらいのもので。それは私が彼の芸術にあまり親しんでこなかったこととは無関係だ。いったい私は他人の死にはいたって冷淡なのである。人々が他人(生前…

モノとしてのココロ

せっぱつまらないとやらない、というのはせっぱつまらないとやめない、というのと同じだ。これは惰性(慣性)の法則で説明できる。物質は外力が加わらないかぎり動きださないし、動いているものは止まらない。それは物質の話でしょ、心は物質とはちがうよ、…

シュトルム詩集

いままで読む気にもならなかったシュトルム。この前さる方の導きで一括購入した角川の「世界の詩集」に入っているので読んでみたが、思いのほかいい詩を書いているのに驚いた。泉のごとく湧き出てくる詩情がいっぱいに溢れてついこぼれ落ちた、というような…

母の日に

ウィリアム・ブレイクの「おさなごのよろこび(Infant Joy)」はおそらく世界でもっとも簡単な言葉で書かれた名詩のひとつだろう。ここまで言葉が簡単だとかえって解釈はむつかしくなる、明白さゆえの不透明さとでもいおうか。生後二日の赤ん坊と母との対話…

夢の中の読書

本を読んでいる夢をときどきみる。夢のなかでも本かよ、と情けなくなるが、夢で読む本にはたいてい「驚愕の事実」が書いてある。その行に達するや、文字どおり「えええ!?」と驚いてしまうのである。けさの夢もそんな感じだった。何にそんなに驚いたのかは…

魚はさかなにあらず

小学生のころ使っていた国語の副読本に、「魚は「さかな」と読んではいけない、「うお」と読みなさい」と書いてあるのを見てふしぎに思った。それじゃあ「さかな」は漢字でどう書くのだろうか?──漢字でどう書くかって? 肴と書くんだよ。なんて答えてくれる…

レルベルグの五月の歌

飛 び 翔 る 共 感この青空のどこからともなく、 五月の息吹にのって、 あらゆるものへの共感が 薫る風のなかをわたってゆく。このよき日々に、ときとして 夢みる人や若い娘は、 かれらの魂のまっしろな歩みのうえに 目には見えない愛の昂まりを感じる。だれ…

三鳥の存在論

古今伝授の三木三鳥。これらの木や鳥を同定しようと苦心した人も多いようだが、しかしそれらがじっさいには何を指しているかはたいして重要ではないと思う。私の考えでは、三鳥は雀や目白が存在するように存在しているわけではない。存在の様態が異なるので…

古語は方言に残る、とすれば

やちほこの かみのみことや あがおほくにぬし なこそは をにいませば うちみる しまのさきざき かきみる いそのさきおちず わかくさの つまもたせらめ あはもよ めにしあれば なをきて をはなし なをきて つまはなし あやがきの ふはやがしたに むしぶすま …

鶺鴒

某駅にて。構内を歩き回っている鳩を見ながら、ふと大英博物館の前にもいっぱい鳩がいたことを思い出す。それは日本の鳩とほとんどいっしょにみえた。鳩と雀は世界じゅうに同じような品種が分布してるんじゃないかと思う。そういう意味ではインターナショナ…

魂の導者

偉人や天才は尊敬して仰ぎ見るけど、居住いを正して深々と頭を垂れる、なんてことはないな。かれらは普通人のちょっとばかりスケールの大きいだけのものだからね。私がひれ伏さずにいられないのは、ヘレン・ケラー、中村久子、大石順教尼といった人々だ。か…

リヒャルト・デーメル「女と世界」

デーメルの「女と世界」到着。こんなに早く届くとはね、つい先日注文したばかりなのに。さっそく目を通す、といっても鴎外式にだが(任意のページをあけてその一篇を読み、すばやく本を閉じるというあれ)。なんというか、「海潮音」をはじめて手に取ったと…

「ドイツ名詩選」のことなど

この前のブログ主の導きで知った岩波文庫の「ドイツ名詩選」。この本のいいところは、日本人による日本人のためのアンソロジーになっているところだと思う。つまるところ日本人の感性にうったえかけるドイツ詩が選ばれているということで、そういう意味では…

夜の詩人ではないかもしれないデーメル

河出書房の「世界詩人全集」にデーメルの訳詩がいくつか載っている。それらを読みながら、「夜の詩人」というエピセットはどうも私の早とちりではなかったか、という気がしてきた。ちなみにこれらの詩篇の訳者の一人は森鴎外である。鴎外という人は徹頭徹尾…

夜の詩人デーメル

ヴァン・レルベルグの名前がフォーレの歌曲のおかげで今日かろうじて命脈をたもっているとすれば、似たようなことはリヒャルト・デーメルについてもいえる。デーメルもまた「浄められた夜」をはじめとするシェーンベルクの諸作に歌詞を提供したことでからく…

大手拓次文庫のフランス語図書

原子朗氏の本に拓次の所蔵していたフランス図書の目録があって、これを見ていると彼の嗜好がなんとなくうかがえる。版元は圧倒的にメルキュール書店のものが多くて、これは拓次にかぎらず、当時フランス文学に関心をもっていた人々はほとんどこの本屋のお世…

ルイス・ブニュエル「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」

アマゾンからのおすすめでなんとなく購入。期待することもなく見たが、そんな生ぬるい鑑賞態度にふさわしい脱力した映画であった。入れ子になった悪夢の同時遍在、しかもそれをコメディのタッチで描き出すことで、ブルジョワジーの、というより暇をもてあま…

拓次と黄眠

原子朗氏のすばらしい拓次論を読み終える。400ページ近いがまったく長さを感じさせない。むしろ短すぎるくらいだ。この調子で永遠にやってくれ、と思ってしまう。拓次の詩を「エキゾチックな装いをこらした、本質的には呪文」であると断じる原氏の目に狂…

花の名前の好き嫌い

きのう「さくら」という言葉の音が好かん、というようなことを書いて、その責を「ら」の音に負わしたが、それじゃ「ばら」はどうなんだ、という疑問が浮んだ。ばら。これは花も、樹も、呼び名も、薔薇という漢字も、その音読みである「そうび(さうび)」も…

満開の桜を見ながら

寒い日がつづくので今年は桜の咲くのはもっと後かな、と思っていたら、もうすでにあちこちで満開になっている。桜というのは毎年気づかないうちに咲いて、気がつくともう散っている。人々は桜を見ながら、ただ桜を見ているのではない。そこに個々の人のさま…

「文芸ガーリッシュ」本朝篇

最近どうもガーリッシュ成分が足らないんじゃないか、と思って手に取った千野帽子氏の「文芸ガーリッシュ」。これの舶来篇はだいぶ前に読んだ。で、今回はそれの日本篇であるが、まず目次をみて驚く。ほとんどが知らない作家の知らない作品ばかりだ。知って…

拓次とレルベルグ

岩波文庫の「大手拓次詩集」読了。まいったなこの本は。私はこれを読んで、詩に対する認識を新たにした。いや、認識を新たにした、なんていう紋切型では収まらない、認識を刷新した、と正確にいうべきだ。こんなのは中学のときに読んだヴェルレーヌ詩集以来…

レルベルグの和訳と拓次の仏訳

一ヶ月間にわたる過去の亡霊との戦い。悪魔祓いはほぼ完了し、悪魔どもはあらかた召喚して瓶につめ、ソロモンの印璽で封印しておいた。中には十年以上取っ憑いている悪魔もいて、なかなか骨の折れる祓魔式だったが……悪魔というのは根絶やしにはできない。で…

死刑について思うこと

死刑の存廃。むつかしい問題だけど、たとえばリン=チなんていう身の毛もよだつような怖ろしい死刑があっても犯罪者は後を絶たなかったらしいから、抑止力としてはあまり効果はないんじゃないかと思う。死刑がなくなったからといって急に凶悪犯罪がふえるか…

饗庭篁村によるポーの紹介

日本で最初にエドガー・ポーの作品を訳出紹介したのは饗庭篁村で、明治20年11月に「黒猫」を、12月に「モルグ街の殺人」を、翌21年1月に「眼鏡」を、それぞれ読売新聞紙上に発表している。今回それのファクシミリを見て、その紹介の見事なのに感心…

岩波文庫の大手拓次詩集

昼休みに会社の近くの古本屋へ行ったら岩波文庫の大手拓次詩集があった。大手拓次、そういえばこの前日記で言及したな、と思いながらその本を手にとってぱらぱらと読んでみて驚いた。これは……私はこれまで思潮社の現代詩文庫で拓次の詩に親しんできたのだが…

大手拓次のこと

ヴァン・レルベルグに近い資質をもった日本の詩人となると、大手拓次になるだろうか。頃日戦後の名詩を集めたアンソロジーを読んで、口語自由詩というジャンルではいまだに拓次を超える人はあらわれていないという確信をもった。こと口語自由詩にかぎってい…

散歩者と遊歩者

ルソーに「孤独な散歩者の夢想」という題の本があるが、孤独な夢想家だから散歩するのか、散歩するから孤独な夢想家になるのか、よくわからないところがある。散歩で有名なのは、あとカントだろうか。彼を孤独な夢想家と呼ぶのは妥当でないかもしれないが、…

シャルル・ヴァン・レルベルグについて

Forvo というサイトがあって、ちょっとした発音を調べるのに便利なんだが、ここで Charles van Lerberghe の発音を調べてみると、フラマン語ではまだ上ってなくて、オランダ人が発音したものだけあった。それによると、チャールス・フォン・レアベアヘみたい…